本書の冒頭を飾る一局、紹介が遅れたのは上手の名前が読めなかったから(古書は達筆なのでこのケースはままある)江戸時代素人の最高段位は七段だったが、それを獲得した者は多くがスポンサー的な人物でお手盛り昇段≠フようなものであった。そんな中で福嶋龍治(後、福島順喜)は、真に七段の力ありと評される数少ない一人である。その強豪に挑戦する七之助は宗英の幼名、この時17歳であったと記されている。上手の趣向で超急戦含みの序盤だったが、七之助は挑発に乗らず結局普通の形へ進む。25手目3四飛と石田に組めては上手充分の構え。35手目8二玉と離れ駒が出来たところで1四歩から開戦は今しかないところ。1三歩の垂らしに6四角が疑問だった様で、ここは2四歩、同歩、2五歩が良かったのでは?本譜はと金が間に合ってきた。56手目3七桂はなんとも心憎い落ち着きぶりで、1四飛を急ぐと4五銀で紛れてしまう。龍治も最善と思える順で迫るのだが、71手目4六桂のところ3九飛が7四桂の筋で効かないのが痛い。固い上手玉を寄せるのはまだまだ大変かと思えたところで80手目8六桂から一気の仕上げ。これだけ完璧に指されては龍治もお手上げで、七之助が将来の大器の片鱗を遺憾無く示した一局と言えよう。