市川太郎松は天野宗歩の最高弟で、実力は優に六段以上と言われている。上野房次郎は後の十一世名人八代伊藤宗印。家元最後の名人として、明治維新以後の将棋界存続に尽力した。
この両者によるゴールデンカードなのだが、どうもかなり若い頃の対局らしく特に太郎松の指し手が粗い。まず29手目5五歩からの歩交換が勇み足で、すかさず4五歩と反撃されて困った。7七角から3五歩は手筋だが、5三角が好防で手にならない。47手目4八歩では例え自爆になっても3五飛、同歩、3四歩とするしかないと思う。続く5二金で1二香なら完封だっただろう。4五桂の勝負手に今度は房次郎が5五歩から4三金と珍妙な受け方、素直に同桂とし、1一角成りに5七歩を効かせて4四桂で決まっていたはず。61手目2七桂はいわゆる田舎に帰れ≠ナこんな手を指してはもういけない。後の名人や伝説的強豪も、修行始めの頃はこの程度の将棋を指していたということで、ある意味微笑ましいとも言える一局である。