第三十二局 御城将棋写 より

将軍の御前で対局を披露したいわゆる御城将棋≠フ実戦集。将棋家元に
とっての公式戦であり晴れ舞台の棋譜なので、かなり丁寧に筆写されている。
後六世名人宗与と後五世名人宗印の対局。将棋所襲位はこの順だが、年齢は
宗与が上でこのとき四十代半ば、宗印は生年不詳だが長男印達が生まれるの
が七年後、五男看寿が二十七年後であることからおそらく二十歳そこそこであろう。
初代宗看門の俊英である宗印がその才で、大先輩の宗与をあっさり抜き去った形
である。9手目7五歩は珍しい手。13手目7四歩でその狙いが分かる。勿論同歩なら
2二角成から9五角の王手飛車だが、さすがにこんな手に引っかかる宗印ではなく
20手目8四飛まで自然に応じて軽い形。8七歩と受けているようでは作戦負けが
はっきりしているので7四歩から8二角と打ち込んだが、24手目9五角が見事な切り
返し。4八玉や6八銀などと応じると8四飛が両取りとなってそれまで、7七歩は止むを
得ないが8七歩(同銀は8四飛)から7六歩の追求が厳しい。以下二枚替えで飛車を
成り込まれ、香は取り返したものの40手目8八歩成りの局面は先手敗勢に近い。
この後の宗印の指し手はそれまでの厳しさとは一転して46手目7二歩(9五角から
6三香成の防ぎ)など、形作りもさせないと言わんばかりの手堅さ。一気に寄せる順も
あったと思うが、あえて本譜の真綿で首を締めるような勝ち方を選んだのは、次期
名人位を確定させるために唯一のライバル(この時御城将棋を勤められるのは、
四世名人五代宗桂、宗印、宗与の三名のみ。初代宗看は隠居)との力の差を
見せつけようとする意図があったように思われる。