第三十三局 将棊粹金 上 より

 福泉藤吉はいわゆる“所沢の藤吉”として高名な民間棋客。晩年七段
まで昇った。傳次郎は江戸の人、本書では六段となっている。
 序盤、上手の指し手は変則的“右香落”の書き間違いかと思った程で、
21手目5二飛まで異様な形の出現。29手目8二玉はさすがに離れ駒を
多くして危険で、3六歩の仕掛けは当然。3二飛と受ける様では銀は7二
にいた方が固いし、同じ手数で7二金、6二銀の囲いもあった訳だからこ
こでは上手の作戦失敗は明らかだ。35手目4五歩の反撃で“美濃囲い”
ならむしろ上手に分のある戦いとなるべきところだが、いかんせんこの形
では破綻を来しそう。45手目3五銀直では7二金ととりあえず固めたい。
50手目1四歩から1三歩で、ようやく左香落ちの弱点に手がついた。58
手目7五角は面白い手で、3一とからのと金の活用が狙い。離れ金を玉に
近づけるので一見疑問だが“と金の遅早”でこれが間に合ってくる。70手
目5二とまで、桂損ではあるが上手の3五銀、4四銀が完全に遊んでいる
のでここでは下手優勢だ。以下手順に桂を取り返し、1五銀と涙のでるよ
うな銀を打たせてますます好調。83手目5一桂は馬を呼びこんで“ありえ
ない”手。この時藤吉は28歳。後の強豪もまだ田舎将棋から脱してはい
なかった様だ。一方傳次郎は勝ちが見えてからは100手目4二歩や次の
7九金など、慎重な指し回しで付け入る隙を与えず、大きく引き離しての
快勝となった。