第三十四局 御城将棋写より

 前局の六年後の対局。この年五世名人二代宗印が没し、七十六歳と当時
では大変高齢の三代宗与が将棋所に襲位したところ。近く予期される名人
の代替わりを控えて、伊藤家の当主となった印寿にとって最も負けられない
相手との一戦である。もちろん宗民も同じ思いであっただろう。 14手目3二
金は珍しい手だが、豪腕の印寿の急戦を警戒したものか。それでも印寿は
23手目3五歩と仕掛けていく。いくら何でも無理筋と思うが、攻める
強引∞中終盤の力で勝負≠ヘ、二代宗印とその息子兄弟達に共通の
棋風の様だ。26手目3六歩では3四銀、3八飛、4五歩、3五銀、同銀、同飛、
4六歩、同歩、同飛の方が分かりやすかった。多分そこで3七桂を警戒したの
だろうが、4四歩で受かっている。本譜は桂を働かせる分少々不満。41手目
2九飛に今日なら千日手狙いの3八馬もあるが、当時は仕掛け方より手を
換える<求[ルのため無効。45手目3七歩では悪いながらも3三歩と桂交
換に行きたい。2五馬の局面では振り飛車が先手の攻めを切らせている形、
しかし次の8六角に5二金が失着で、2二歩(同金なら2五飛〜3一角)がうる
さくなった。ここで4三金なら先手は後続手段に困っていただろう。57手目1
一とまで香得となっては逆転。宗民の4五歩から5二桂の受けは意味不明、
棋勢の急変に動揺したものか。8六香は急所の一打で、7一銀の受けに8三
香成から2五飛が目を見張る手順。優勢なだけにそこまでしなくても良い感
じだが、71手目5四銀が妙手で印寿は読みきっている。6一銀なら3三角成
同金、8三金、7一玉、5三銀成が飛車取り詰めろ。仕方なく同歩だが、79
手目6三桂成まで一気に必勝形に持ち込んだ。収束も緩みなく即詰みに討
取って将棋無双″者三代宗看の終盤力を十分に表した一局である。