第四十三局 将棊絶妙 上 より

伊藤看寿 ― 伊藤看恕 戦

 伊藤家の末弟看壽と看恕の兄弟対決。看壽は献上図式の最高峰とされる
通称“将棋図巧”の作者。その完成度の高さは“神局”と称されるほどで、
代表的な“煙詰”や611手の“壽”などは遠く昭和に至るまで、何人も創作
出来なかった程高度な内容の作品である。八段に昇って兄宗看の跡目と
なり、次期名人は確約されていたが42歳で夭折。没後名人位を贈られた。

 相居飛車で後手の看恕は22手目7二飛と袖飛車の作戦。31手目3六歩を
見て5一角から7三角と転換し、4五歩と位を取る。まだ駒組が続くかと思った
ところで44手目いきなり3五歩の仕掛けだが、同歩ならどう指すつもりだった
のか?3八歩は2九飛で手にならないし、4六歩も3六飛で後続手段に困りそう。

 本譜は端に手を付けたのだが歩を渡したために今度は50手目3八歩に2九
飛だと3九歩成、同飛、3六歩で悪い。この辺りの指し手にはかなり疑問を感
じる。先に香得できては後手好調。54手目3四同銀では2四香と打ちたい。

 以下3三歩成は同銀(同歩は同桂不成から2五歩)同桂不成、同桂、3六飛、
1八馬以下飛車を追いかけて相当だし、1六飛も2八馬、1三桂成、同桂、1四
飛に1二歩と受けて十分だろう。香を取り返して形勢は接近、成桂とと金の速
度争いだ。

 看寿は67手目3一成桂から強引に飛車を成り込む順で勝負に出、看恕も
3二銀から2一桂と強靭に受ける。この辺りの手順は勝負所での攻防だけ
あって大変面白かったが、83手目3一銀成がおそらく敗着、ここは3三香と
して何はともあれ飛車の侵入を阻むよりなかった。以下同銀、3一銀成、5二飛、
2一竜、6二玉の順が予想され、難解な中盤戦が続いたであろう。

 3八飛成とこの飛車が急所に活用できては大勢決す。この後看寿もなんとか
食い付いていこうとするのだが、96手目5三銀から102手目7一金打までと
“何もさせない”手厚い受けで手段を封じる。看恕はどうやら受けに本領を発揮
するタイプのようだ。116手目7四馬が決め手、同桂には6六歩が痛打となる。