2手目スペシャル 〜先手有利へのアンチテーゼ〜
 前回、特集しました「初手」に続いて、今回は後手の初手である「2
手目」に注目してみたいと思います。
 2手目は初手ほどの広がりはありませんが、先手有利(↓の勝率デ
ータ参照)に対するアンチテーゼとして、大きな課題となっています。
 その中でここ10年の間に、横歩取り・中座流や四間飛車・藤井シ
ステム、ゴキゲン中飛車、コーヤン流三間飛車など、プロ棋界でも
後手番での様々な戦法・戦術が日々研究され、登場して来ました。
 しかし、それをはなっからこっち(後手)の流れに持って来ようとす
るのが、後手の初手である「2手目」からの変化です。
 それでは、2手目の変化を見て行きましょう。

 
※今回は▲7六歩と▲2六歩に対する2手目(後手側の初手)
   のみをピックアップしました。



ー△3四歩と△8四歩ー
 まずは、”2大応手”の3四歩と8四歩の勝率の変遷を見てみましょう。
▼過去5年の各2手目の勝率の推移
初手 ▲7六歩 ▲2六歩 総合
2手目 △3四歩 △8四歩 △3四歩 △8四歩
平成10年度 0.478 0.506 0.396 0.491 0.483
平成11年度 0.504 0.467 0.481 0.547 0.492
平成12年度 0.497 0.452 0.483 0.473 0.478
平成13年度 0.491 0.467 0.468 0.476 0.481
平成14年度 0.489 0.440 0.429 0.386 0.561

 藤井システムの大ブレイクにより、平成10年度から後手の初手は
△8四歩より△3四歩の局数が上回りました。
 その人気の凄さは翌平成11年度の▲7六歩に対する△3四歩の
勝利が5割を超えた事で証明されています。そして藤井システムに
続いて、この年度に登場した横歩取り中座流もその流れ加わりました。
 もう一つ数字上で目立つのは平成14年度の▲2六歩、△8四歩の
組合せの後手勝利3割台。この数字が今年度(平成16年度)の相掛
かり棒銀の流行でどう推移するのか注目されます。

↓ ▲7六歩 ↓
△3二金 Feeling Data (56勝73敗)
 初手▲7六歩に対して、△3四歩・△8四歩
以外の後手の初手で一番多いのがこの△3
二金で、129局がデータから検出されました。
 ご存知の通り、相手が居飛車党の時に、「(
飛車を)振れるもんなら振ってみろ!」という
挑発の意味を含んだ一手で、それに気合で
応えた居飛車正統派の棋士が飛車を振った
ケースが多く見受けられます。
 最近は居飛車・振り飛車と両方指す棋士が
増えた事もあり、昔ほどの有効性や意外性は
無くなって来た感があります。
 その中でも谷川王位や羽生名人はタイトル
戦でこの△3二金を採用。柔軟な羽生名人
は分かりますが、早々からの大きな変化を嫌
う谷川王位が採用しているのは驚きです。
 また、豊川六段はこの△3二金を一つの戦
法として開拓。この金を前線に繰り出すという
構想は豪腕・豊川六段らしい戦術で、20勝
15敗というハイアベレージを残し、かつて将
棋世界で、同戦術の講座も掲載された程で
す。
 
採用棋士 勝敗
豊川孝弘六段 20−15
東 和男七段 0−8
田村康介五段 3−5
浦野真彦七段 1−5
村山 聖九段 5−1
桐山清澄九段 1−3
島 朗八段 2−2
神谷広志七段 1−3
先崎 学八段 1−3
飯野健二七段 0−4
中川大輔七段 0−4
飯塚祐紀六段 2−2
田丸 昇八段 1−2
谷川浩司王位 2−0
丸山忠久棋王 2−0
羽生善治名人 1−1
淡路仁茂九段 1−1
郷田真隆九段 1−1
三浦弘行八段 1−1
採用棋士 勝敗
大島映二七段 1−1
長沼 洋六段 1−1
増田裕司五段 2−0
伊藤 能五段 1−1
伊奈祐介四段 1−1
森内俊之竜王 1−0
南 芳一九段 1−0
石田和雄九段 1−0
安恵照剛七段 1−0
行方尚史六段 1−0
中村 修八段 0−1
屋敷伸之八段 0−1
坪内利幸七段 0−1
佐藤秀司六段 0−1
藤原直哉六段 0−1
野月浩貴五段 0−1
川上 猛五段 0−1
岡崎 洋五段 0−1
勝率 0.434
△5四歩 Feeling Data (12勝16敗)
 昭和52年頃に指されていたデータも残って
いる。いわゆる角道を開けない「原始中飛車」
の出だしだ。
 平成11年〜12年にかけてゴキゲン中飛車
の創始者・近藤正和五段が連採していたが、
成果が上がらなかった為か、それからの採用
はない。
 最近では、昨年度から「ゴキゲン」や「穴熊」
などの中飛車採用が目立つ久保利明八段が
年末にこの原始中飛車をA級や王将リーグで
採用し、注目された。
採用棋士 勝敗
近藤正和五段 1−5
本間 博五段 2−0
脇 謙二八段 1−1
久保利明八段 1−1
浦野真彦七段 0−2
二見敬三七段 0−2
真部一男八段 1−0
飯野健二七段 1−0
神谷広志七段 1−0
採用棋士 勝敗
田村康介五段 1−0
増田裕司五段 1−0
山本真也四段 1−0
大内延介九段 0−1
佐藤大五郎九段 0−1
加瀬純一六段 0−1
橋本崇載四段 0−1
竹部さゆり三段 1−0
島井咲緒里初段 0−1
勝率 0.428
△6二銀 Feeling Data (12勝13敗)
 こちらは、羽生名人が谷川王位相手に敢行
した△6二銀で話題となった指し手。
 「可能性がある」と感じた羽生名人は以降も
タイトル戦で採用したが、ある結論めいたもの
を感じたのか、それ以降は全く見なくなった。
 しかし、それ以降も他の棋士の手によって
年に数局は現われている。
 アマチュア強豪として有名な鈴木英春さん
のオリジナル戦法の「かまいたち戦法」のバリ
エーションの中にこの2手目△6二銀がある
そうだ。
採用棋士 勝敗
羽生善治名人 3−2
三浦弘行八段 2−0
田丸 昇八段 0−2
郷田真隆九段 1−0
増田裕司五段 1−0
森内俊之竜王 0−1
丸山忠久棋王 0−1
中田章道六段 0−1
採用棋士 勝敗
木村嘉孝六段 0−1
宮田敦史四段 0−1
石橋幸緒三段 2−1
田村康介五段 2−1
谷川治恵四段 1−0
山田久美三段 1−0
竹部さゆり三段 0−2
島井咲緒里初段 0−1
勝率 0.480
△7四歩 Feeling Data (3勝1敗)
 平成5年に中村修八段が続けざまに採用
し、当時の米長邦雄名人を撃破し、強烈な
”デビュー”を飾った。
 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△7四歩という
作戦は有力な作戦とされているが、それを
省略して△7四歩が中村八段オリジナル。
 その時からすでに10年以上の時が経つ
が、本家の採用は平成5年の対南九段戦
を最後に無い。再び見られる日はあるか…
 
採用棋士 勝敗
中村 修八段 2−1
金沢孝史四段 1−0
勝率 0.750
△5二飛 Feeling Data (1勝3敗)
 こちらも原始中飛車をベースにした指し手。
基本的には△5四歩と狙いと同じで、将棋
もこの手の影響で作戦負けになっていると
いう事はない。
 後手番の上、形をいち早く明示してしまう
だけに、指しにくい手のようだ。
採用棋士 勝敗
木下浩一六段 1−1
神吉宏充六段 0−2
勝率 0.250
△1四歩 Feeling Data (2勝1敗)
 ここからは「阪田三吉」でご存知の初手の
端歩突き。この2手目△1四歩は花田長太
郎八段と阪田三吉の「天竜寺の決戦」で指
された。
 現役では乱戦の雄・田丸昇八段が採用。
深浦朝日選手権者・桐山九段といった難
敵から白星を挙げている。
採用棋士 勝敗
田丸 昇八段 2−0
関屋喜代作七段 0−1
勝率 0.750
△9四歩 Feeling Data (0勝2敗)
 こちらの方が有名でしょうか。「南禅寺の決
戦」で木村義雄八段に対して、阪田三吉が
放ったのが2手目△9四歩。
 当時、この一手だけで、その真意につい
ての論評が飛び交いました。
 最近では、平成13年のJT将棋日本シリ
−ズ(公開対局)で先崎八段が佐藤棋聖
に対して、▲7六歩△9四歩▲2六歩△9
五歩という出だしで始まり、以降△9二飛〜
△9四飛からひねり飛車模様に構えました。
”見せる将棋”にお客さんは大喜びでした。
採用棋士 勝敗
先崎 学八段 0−1
平藤眞吾六段 0−1
勝率 0.000
↓ ▲2六歩 ↓
△3二金 Feeling Data (9勝9敗)
 この初手には、普通は△8四歩か△3四
歩しか考えられないところですが、ここでも
田丸八段は可能性への挑戦を続けてい
ます。
 そして平成12年には名人戦で登場。丸
山棋王の▲2六歩に佐藤康名人(当時)
は△3二金!を採用しました。
採用棋士 勝敗
田丸 昇八段 7−8
佐藤康光棋聖 0−1
木下晃七段 1−0
泉 正樹七段 1−0
勝率 0.500
△5二飛 Feeling Data (0勝1敗)
   これもかなり大胆な手です。
 ▲7六歩に対する△5四歩や△5二飛と
同じように見えますが、大きな違いは先手
が角道を開けていないところ。
 力戦中飛車の一つのポイントは角を交換
しての大きな捌きなのですが、この場合は
先手(居飛車側)が角道を開ける権利を持
っているので、なかなか中飛車側が暴れら
れないのです。
 
採用棋士 勝敗
山下カズ子五段 0−1
勝率 0.000
△6二銀 Feeling Data (1勝0敗)
 これも平成6年に羽生名人が▲7六歩に対
する△6二銀を採用していた時期に指された
将棋。
 数局試された▲7六歩△6二銀に比べて、
この組合せは1局のみしかない。
 この将棋の流れは↓の参考棋譜をご覧下
さい。
採用棋士 勝敗
羽生善治名人 1−0
勝率 1.000

参考棋譜
 今回もこの1局しかない!という将棋を2局、ご紹介します。
 1局は▲2六歩△6二銀の将棋と、この2手目スペシャルの主役となった田丸昇
八段が見せた初手▲7八金、それに対する青野照士九段の△3二金!という将
棋をご覧いただきましょう。
初手▲2六歩、2手目△6二銀
 ▲畠山鎮五段(当時)vs△羽生善治名人 NHK杯トーナメント(H6.8/8)
初手▲7八金・2手目△3二金
 ▲田丸昇八段vs△青野照市九段 B級1組順位戦(H6.8/27)


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